女の時間と男の時間と

何年か前に『話を聞かない男、地図が読めない女』という本が話題になりました。

男性も女性も敵に回しそうな、なかなか刺激的なタイトルですが、中身はいたってまじめそのもの、男女の感じ方、考え方の違いを科学的に解き明かそうとするものでした。

当時は新しかったこの試みも、近頃すっかり定着したようです。恋愛のハウツー本はもちろん、心理学系の読み物からビジネス書籍に至るまで、またネット記事にも、実に多くの「男女の違い」が取り上げられています。

女性はものを平面的に見るが、細部まで目が行き届く。

男性は立体的に見ることができても、細かなところまで認識できない。

女性は話を聞いてもらいさえすればすっきりする。

男性は解決策が見つからなければすっきりしない。

女性は同時にいくつかのことを並行してやるのが得意。

男性は一点集中が得意。

女性はイメージで考える。

男性は言葉で考える。

女性にとって恋愛は上書き。

男性は別フォルダに保存する――などなど。

根拠としては、脳の構造の違いと、本能の違い、ということです。つまり、男性の狩猟本能と女性の採集や母性本能との違い。おおよその傾向ではあるのでしょうが、言われてみるとなるほど、と思えるものではあり、女性と男性との認識の違い、価値観の違いというものはあると言ってもよさそうです。

占いでも、女性を鑑定させていただく場合と男性を鑑定させていただく場合とで、おおよその違いがあるように思います。もちろん、個人差はあります。その個人差を含めて鑑定するのが占いと言う技術ですから、それも含めて読み解いていくのですけれども、タロットなら女性によく出るカード、男性によく出るカードがあるのです。

女性と男性の違いに、時間の感覚というものもあります。

女性は具体的に時間を考え、男性はおおまかに考える、という違いです。

女性は今週、来週、来月、半年後といった近い未来をよりはっきりと意識するいっぽう、男性は「今このとき」と「いつかそのうち」とに意識を向ける、そう言い換えてもよいでしょうか。

デートの約束をする、というとき、女性はLINEのやりとりを定期的にしながら、彼の予定を具体的に把握したいと思います。今月、できれば来月のデートの約束も取り付けて決めておきたいとも思います。

男性が考えるのは自身の今日明日明後日、せいぜいが今週くらい、それで無理そうだとなると、そのうち会えれば、と思うまでです。LINEでも、「また会いたいね」と伝えるくらいだったりします。

女性は不安になります。そのうちっていつ?LINEもまめじゃないし。もしかして、ほかに誰かいたりしない?

男性は今やるべきことに集中しています。彼女も忙しいだろうし。そのうち会えるだろうし。

どちらも、自分にとっては当たり前の時間の感覚です。けれど、女の時間と男の時間との違いが知らぬ間に誤解を生み、放っておけば心のギャップを広げてしまうことでしょう。

こうした時間の感覚の違いも、女性の採集や母性の本能と、男性の狩猟本能との違いから説明できそうです。

子を産む性である女性は先史時代から、住まいの近くで採集を行い、葉や花や季節の移り変わりからの時期を予測し、子どもの成長を考えながら日々の食事を作りつつ、衣服の用意もしていたことでしょう。だから、近い未来を具体的に考えるのが当たり前になった。

男性は、どこかに獲物がいるかもしれないと野山を巡り、突如として獲物を目の前にすれば逃すまじと狩りに集中したことでしょう。今現在と、いつかの未来とを考えるのがごく自然な感覚であった、と言えそうです。

占いという学問、思想体系から考えてみますと、古来、女性性は水にたとえられてきました。タロットでも、水にあたるカップ(聖杯)は本来、女性的な価値観や態度を表すとされています。

水は高いところから低いところに移動するものです。そこには流れがあり、連続性があり、近くにあれば触れることもでき、器に移して保存することもできます。

これを時間の感覚に置き換えれば、「今」を起点にして未来へと流れゆくもの、過去から「今」へと流れ来ったものでもある。それぞれにつながりがあり、前後の関係があり、前はどうだったから今はこう、そして次はこう、と予想がつくし、予想したくもなる。これが女性にとっての時間、「近い未来を具体的に意識する」ことと言えるでしょう。

タロットでは、男性性はワンド(棍棒)、すなわち火がその象徴です。

火は何もないところから突然に現れるもの。そこには連続性はなく、急に火が付いたり、また消えたり、触れることはできず、保管することはできません。

時間の感覚に置き換えるなら、あるのは目の前にある現在と、突然に起こるかもしれないとらえどころのない未来であり、漠たる予感があるのみ、予感が当たったら当たったでなんとかするしかない。これが男性にとっての時間、「今現在をはっきり意識し、いつかの遠い未来を漠然と意識する」ことと言えます。

女の時間と男の時間の違い、それが日常の連絡や、デートの約束くらいのことなら、なんとか調整も可能かもしれません。

けれど人生の一大事となるとより深刻な結果を生むおそれがあります。

たとえば、結婚という重大な決断について。

結婚願望がどちらにもある恋人同士、それも互いに「彼と結婚したい」「彼女と結婚したい」と思い合っている同士がいたとします。

結婚の話は、互いによくする。

彼からも、彼女からも出る。

けれども、彼は「いつかそのうち」だと言う。

彼女はその「いつか」がいつなのか知りたくて、けれど訊いてしまうと重い女だと思われるかもしれないと怖くもあって、ストレートに訊けずにいる。

そのうち彼女は将来が気になって仕方がなくなる。子供を産むならあと3年のうちに結婚しておきたい。職場復帰は早いほうがいい、だとすると結婚して5年のうちにはできれば2人産んで小学校に上がる頃にはフルタイムで、学資のためと子供たちに負担をかけないよう老後のためにできるだけ収入を上げておきたい。だとすると福利厚生のよりよい職場に転職してから式場を抑えて、となると、今年のうちにはプロポーズしてくれないと間に合わないかもしれない。

でも彼は、ちゃんと考えてくれているのかどうか。そんな素振りもなければ、「結婚したいね」と言うばかり、口だけなんじゃ?

そうして、とても幸運なことに、その年のうちに、彼は彼女にプロポーズをした。

彼女は喜べなかった。なんでこんなに急に? 彼の都合なの? 私の都合は?

それから3日、1週間、2週間と経つうちに、彼女は暗い気持ちになった。話を何も進めてくれない。結局、彼はこれから具体的にどうするか、考えてはいないのだ。やっぱり口だけなんだ。

ところが、彼はそんな彼女の気持ちがよくわからない。何をそんなに不満そうにする?せっかくプロポーズしたのに?

彼も次第に暗い気持ちになる。やっと結婚できる状況になって、その気にもなって、ようやく言えたのに、彼女はどんどん不機嫌になる。理由を何も言おうとしない。結局、自分と結婚することに気が進まないのか。

――どちらも、真剣です。自分の時間の感覚に従って、本気で、結婚という人生の一大事を考えている。

どちらも自分のものの眺め方、考え方において、誠実である。

けれど、いえ、だからこそ2人は食い違ってしまう、すれ違ってしまうのです。

この2人がもし、お互いの時間の感覚を理解し合い、持ち寄ることができたなら。彼女の時間と彼のそれとを、ひとつにより合わせることができたなら。

今も、近い未来も、いつかの未来も、見渡せるようになるでしょう。どれもたしかな手触りのする、濃密ではっきりとしたものになることでしょう。それでいて、未知の可能性に向かって開かれたものでもあるでしょう。

考え方、ものの眺め方の違うもの同士は、最強のパートナーになり得る相手でもあるのです。

お互いの違いを知り、理解し、どのように組み合わせていくことができるのか。

占いをそのためにお役立ていただければと、願っております。

Office FUYUNO

占い師、占い講師、トレーナー冬野智積子のインテグラル・トレーニングのページです

0コメント

  • 1000 / 1000